
EdvPathで“気づき”を“行動”へ ― 生徒の自己理解が学びを変える -北見市立常呂中学校
北海道北見市にある北見市立常呂中学校では、非認知能力を可視化するツール「EdvPath」を活用し、生徒一人ひとりの“今”の姿を丁寧に見取る取り組みを進めている。導入のきっかけは、「やって終わり」になりがちなアンケート調査への課題感。
現在では、データをきっかけに生徒の気づきを促し、対話を通して行動変容を支えるサイクルが根づき つつある。 今回は、渋谷 岳史先生、尾藤 凜先生にお話を伺った。
― EdvPathを導入したきっかけを教えてください
導入を検討したのは、当時の教頭先生からの紹介がきっかけでした。1年生の担任をしていた時期で、「新しい学年で試してみよう」という話になったんです。北見市内ではQUなどのアンケートを年2回実施していましたが、どうしても“やりっぱなし”で終わってしまうことが多く、生徒にフィードバックできないまま1年が過ぎてしまうという課題がありました。年度初めと年度末だけの比較では、変化の理由が見えない。「どうしてこの子はこうなったのか」を話し合う材料が欲しかったんです。また、不登校の生徒が増える中で、傾向を早期に把握して事前にアプローチできるツールが必要だと感じていました。ベテランの先生方は経験値で判断できますが、若い先生が増える中では、データという“共通のものさし”がサポートになると考えました。

― 実際に導入してみて、どのように活用されていますか?
学年を引き継ぎ、学校行事や教育相談などの節目でEdvPathを活用しています。特に行事の前後で実施すると、生徒の変化をリアルタイムに見取ることができるんです。教育相談の際には、事前に結果を確認して「この子にはどんな話をしようか」と筋道を立てます。面談中も、生徒と一緒に結果画面を見ながら、「最近こういう傾向があるけれど、何か心当たりはある?」と対話を重ねています。データがあることで、生徒自身も自分を客観的に見つめられるようになります。「ここが下がってきてるね」「ここが伸びてるね」と話すうちに、生徒から「そういえばあの時…」とエピソードが出てくる。記憶が新しいうちに対話できるのが最大の魅力です。これまでは質問紙への回答をもとに会話していましたが、数値化されたデータがあることで話しやすく、伝わりやすくなりました。
― 不登校や学校になじめない生徒への支援にも活かしているそうですね。
はい。不登校の生徒が登校できたタイミングで一緒にEdvPathを実施しました。結果を見ながら「自分にはこういうところがあるのかもしれない」と気づいたようで、その後、表情が明るくなり、登校回数も増えていきました。自分の状態が見えないと、「人からどう思われているんだろう」と不安になります。でも、データとして自分の特性を知ることで、「自分にもこんな力があるんだ」と受け止められるようになる。気づきが安心につながり、安心が行動を生む。EdvPathは、そんな循環を支えるツールだと思います。
― 学習面ではどのように活用されていますか?
教育相談の時期はちょうど定期テストが終わった後なので、テスト結果とEdvPathのデータを一緒に振り返るようにしています。例えば「GRIT(やり抜く力)」の中にある「復元力」が高い生徒には、「途中でつまずいても立て直す力があるよね」と声をかけます。「セルフマネジメント」が高い生徒には、「目標に向かってしっかり進めているね」と励まします。逆に数値が低い生徒には、「どうしたら上げられると思う?」と一緒に考えます。多くの生徒が「1人だと続かないから友達とやる」と答え、実際に休み時間に問題を出し合う姿が見られるようになりました。結果として、教室全体に勉強に向かう雰囲気が広がっています。

― 学校文化としても変化が見られたと伺いました。
本校はもともと自己肯定感が低めの傾向がありました。そこで、行事の前後でEdvPathを実施し、生徒の成長を具体的に伝えることを意識しています。例えば体育祭では、全員が何らかのリーダー役を担い、練習メニューの立案から下級生への指導まで主体的に取り組みました。その後の教育相談で「よく頑張ったね」「クラスを引っ張ったね」と声をかけると、「はい、自分でも頑張ったと思います」と笑顔で答える姿が見られました。“努力が認められる体験”が自己肯定感を高める。普段の授業では見えない生徒の強みを行事で見取ることができ、その変化は数値にも表れています。
― 教員同士の共有やチームでの活用について教えてください。
結果や気づきを学年部会や生徒指導交流会等で共有し、「この子にはこんな声かけが良さそう」と話し合っています。自分では伝えにくい内容も、別の先生から声をかけてもらうことで生徒の受け止め方が変わることもあります。また、若い先生が増える中で、世代間ギャップを埋めるのは簡単ではありません。しかし、EdvPathのように共通言語となるデータがあることで、世代や立場を越えて“生徒の今”を語り合える。小規模校だからこそ、枠を超えた情報共有を進め、「先生同士が常に会話できる職員室」を目指しています。
― 今後の展望を教えてください。
今後、若手教員が増えていく中でこれまで以上に“チームで生徒を見る文化”を根づかせたいと考えています。年齢や経験に関係なく、全員が同じデータを見ながら意見を交わせる。そんな風通しのよい職員室づくりを進めていきたいです。さらにこれからは「1人で抱えずチームで動く」ことを大切にしたいと思っています。EdvPathのデータはそのための重要な共通基盤です。生徒の小さな変化を見逃さず、学校全体で支えていけるように活用をさらに深めていきたいです。
学校概要
学校名:北見市立常呂中学校
所在地:北海道北見市
インタビュー協力:渋谷 岳史 先生/尾藤 凜 先生
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