【学力向上のカギは非認知能力にあり】学校の授業で育成するポイント
海外で話題になっている「非認知能力」
「非認知能力」はアメリカ・カナダを中心に話題となっており、これからの社会を生き抜くために必要な能力の1つと言われています。
そこで今回は、非認知能力の説明と学校教育における「非認知能力」の育成方法、特に「探究学習」を通じた「非認知能力」の育成をテーマに紹介します。
非認知能力とは?
従来の学力テストで測定している読み書きができることや計算能力などの測定できる能力は「認知能力」と呼ばれています。
一方の「非認知能力」はテストでは測定できない能力といわれています。
具体的には、自分自身を理解する「自己理解」や他者や社会を理解する「社会/他者理解」、自分自身の感情を統制する「セルフマネジメント」、対人コミュニケーションにおける能力「対人関係スキル」など、内面的なスキルの総称です。
2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマンによる3〜4歳の子どもを対象にした研究では、非認知能力を育成するプログラム「ペリー就学前プロジェクト」を受けた子どもと受けさせなかった子どもで40年にわたり追跡調査を実施しました。その結果「ペリー就学前プロジェクト」を受けた子どもの方が、学習成績が高く、より豊かな生活を送れることが明らかになっています。
この結果から、両者間における差を生み出したのが、「認知能力」ではなく「非認知能力」であるということが考えられ、これらの能力が子どもたちの生活を豊かにしたといわれています。
非認知能力を伸ばせるのは幼児期だけではない
「非認知能力」は、ペリー就学前プロジェクトのように、3〜4歳を始めとした幼児期の育成が効果的と考えられてきました。しかし、Durlak et al.(2011)の研究では、幼児期後半から青年期の子どもを対象に非認知能力育成のための介入を行った結果、幼児期後半以降においても、非認知能力を向上させることが可能だということが明らかとなりました。(※1)。
つまり、非認知能力は、年齢に関係なく育成することが十分可能であると考えられるようになってきました。そんな非認知能力をどのように育てていくのかを紹介します。
(※1)Durlak et al.(2011)「The Impact of Enhancing Students’ Social and Emotional Learning: A Meta-Analysis of School-Based Universal Interventions」
学校で非認知能力を育てるポイント
学校教育における「非認知能力」とはどのようなものなのでしょうか。
2020年、学習指導要領の改訂に伴い教育の3本柱が明確にされました。
このうち、思考力・判断力・表現力「見えにくい学力」と人間性・学びに向かう力「見えない能力」が「非認知能力」にあたります。
では、これらをどのように学校教育で伸ばしていけばいいのでしょうか。
1.子どもの興味関心を引き出す環境を作る
2.子供が成功したら褒め、失敗しても責めない
以上の2点について解説していきます。
非認知能力育成のための効果的な子どもとの関わり方
「非認知能力」を伸ばしていくための子どもとの関わり方を紹介します。
①子どもの興味関心を引き出す環境を作る。
非認知能力が伸びるタイミングは、子どもが何かに興味を持ったり、課題意識を持つところから始まります。そうした経験を通じて、子どもたちは「探究心、行動力、協力」の能力を形成していきます。
学校教育でも、生徒に対して講義や知識詰込み型の教育を行い続ける先に、生徒の探究心育成は見込めません。
主体的かつ対話的なアクティブラーニングを活用することで、自分自身の興味関心に気付き、目の前の問いを考える思考や周囲との対話のプロセスを介すことで、非認知能力の向上を目指すことができます。
②子どもが成功したら褒め、失敗しても責めない。
子どもは成功だけから学ぶわけではありません。
アメリカ哲学者のデューイは、「経験の再構成」が学びになると訴えてきました。失敗を始め、苦悩や葛藤から子どもたちは経験し、学びを深めていくとデューイは考えました。
非認知能力を伸ばす教育には、このような考え方を持つことが重要です。
失敗したことを責めたり、成功することだけに着目してしまうと、子どもたちの自由な発想による学びや失敗から得られる経験がなくなってしまいます。
学校教育では、生徒が自由な発想に基づき、成功や失敗を経験し、学びを深める過程の中で非認知能力の育成が行われていきます。こうした環境を作ることがこれからの学校教育では求められているといえます。
授業を通じた非認知能力の育成とは?
「非認知能力」を伸ばしていくための効果的な教育方法について紹介していきます。
SELプログラムとSAFE
非認知能力の育成には様々な方法があります。ここでは、SELプログラムに着目して紹介します。
SELとは、「Social and Emotional Learning」の略で、日本語では「社会性と感情の学習」と呼ばれています。SELを構成する非認知能力は「自己理解・社会/他者理解・セルフマネジメント・対人関係スキル・責任ある意思決定」の5つです。これらを向上させることで、心の知能指数「EQ」が向上するといわれています。
SELプログラムは、アメリカのNPO法人CASELによって普及活動が行われています。そのプログラムの1つとして「ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)」を紹介します。
「ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)」は、社会で暮らしていくために必要なスキルを身に付ける教育のことです。具体的には、ディスカッションやディベート、共同行動などが挙げられます。
※参考:LITALICO(2021)「SST(ソーシャルスキル・トレーニング)とは?SSTはどこで受けることができる?対人関係を学ぶとは?仕事に困難を感じる方への活用などについてお伝えします。」
探究学習と非認知能力の育成
SELプログラムとSAFEの4要素を兼ね備えた教育の一例として「探究学習」が挙げられます。2020年の学習指導要領の改訂に伴い、新設された「総合的な探究の時間」を活用した「非認知能力」の育成が可能です。
(※2)
文部科学省は、探究を「問題解決的な学習が発展的に繰り返されていく」課程であるとしています。また、探究学習のプロセスは「①課題の設定、②情報の収集、③整理・分析、④まとめ・表現」であるとしています(※2)。
つまり、総合的な探究の時間は生徒個々の課題設定に対して、アクティブラーニングを実施しながら、生徒が主体的に学習に取り組んでいく教育プログラムとして設置されました。「生きる力」を育む教育を推し進める今日の学校教育における重要な役割を担っているのが探究学習なのです。
これらの探究学習と非認知能力の向上がどのように関連しているのでしょうか。
探究学習にSSTの要素を組み込むことで非認知能力の育成の介入効果を向上させることが可能です。「探究学習×共同活動」の例としては、クリエイティブ実習が挙げられます。
①4人組の班を作り、班の中で共通の課題意識を話し合い
➁問題の背景や歴史、課題の概要を調査
③課題を解決するための方法論を考える
④調べて考えた情報をまとめる
⑤まとめた内容を発表する
このような過程の中で、非認知能力がどのように向上しているのかを紹介します。
例えば、「1.4人組の班を作り、班の中で共通の課題意識を話し合い」では、話し合いにおける対人関係スキルや他者の意見を理解するという他者理解の側面が挙げられます。
他にも、クリエイティブ実習の過程において、いつまでに何を実施していくのかというタスク管理なども班のメンバーとの連携によって実施していかなければなりません。対人関係スキルだけでなく、タスク管理と実行のセルフマネジメントなどの能力の向上も見込めるでしょう。
(※1)文部科学省(2018)「【総合的な探究の時間編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説」
まとめ
「非認知能力」とは従来のテストでは評価ができない後天的な能力の総称です。
そして、この「非認知能力」を育成するプログラムとして「SELプログラム×SAFEの4要素」があり、学校教育では探究学習を通じた非認知能力の育成が可能です。
探究学習は2020年の学習指導要領の改訂に伴い、新設された「総合的な探究の時間」を活用して実施され、探究学習のプロセスに沿ったアクティブラーニングの実施により非認知能力を育成することが可能になることを説明してきました。
Edv Future株式会社では、アセスメント・アンケートの回答結果から、非認知能力の評価を行います。その調査結果に基づき「総合的な探究の時間」を活用して「非認知能力」を育成することが可能なカリキュラムを提供しております。
未来ある子どもたちが、変化の激しい社会を生き抜くために必要な「生きる力」を育成するために支援いたします。