成功事例のご紹介:「探究を通じて、生徒が豊かな人生を歩める人になるために」ー田園調布学園中等部・高等部 長岡 敬佑
2022年度から始まった田園調布学園中等部・高等部における教育の柱の1つ「探究」の実施に尽力してきた長岡先生。この1年を迎えるにあたっての苦悩や、「探究」を実施していく中で感じたことなどを伺った。
人物紹介
長岡 敬佑(ながおか けいすけ)ー中等部1年生担当。教務部探究係主任・数学科主任を兼務。学校法人調布学園に入職後は、「教科横断型授業」の先駆けとなった物理と数学の連携授業に取り組む。現在は、学校内で実施する探究活動の総括を行う。 |
学校紹介
学校情報住所:東京都世田谷区東玉川2-21-8 在校生:634名今回導入したクラス:中学1年生導入時期:2022年4月〜 |
探究の先駆けとなった「土曜プログラム」
田園調布学園中等部・高等部における「探究」の先駆けとなったのは、同校の特色の1つである「土曜プログラム」だ。2002年に開始された同プログラムは、学年ごとに決められた内容の講座と、生徒自身が興味のあるテーマの中から自由に選択できる講座の2種類から構成されている。
この「土曜プログラム」の中で、高等部1年生の学年講座として、学年の一部にあたる60名程度の生徒を対象に実施した「探究(デザイン思考)」が調布学園における探究の始まりであったと長岡先生は語る。
「デザイン思考」を中等部から
学習指導要領の改定が決定する前から探究の重要性を感じていた入副教頭は、かねてより、学校として探究に取り組む構想を抱いていた。
当初は、ゼミ形式の授業を実施するという案もあったが、実現にあたっての課題が多く、実施には至らなかったという。
結果的に、すでに実施していた「土曜プログラム」内の新規講座の1つとして設置されたのが先に紹介した「探究(デザイン思考)」だ。
その後、学習指導要領の改訂を機に探究学習の実施を迫られた際、学校として「これまで高等部1年生向けに実施していたデザイン思考を中等部でも実施したい」という結論に至ったという。
ルーブリックを作成
探究を本格実施していくにあたり、まずは「『探究』の取り組みを通じて生徒にどう成長してほしいのか」という目標を検討することになった。そこで、学校の探究指導方針を明確に示し、学内で共有するためのルーブリック作成が始まった。当時の状況について長岡先生は次のように語った。
「ルーブリックの作成は、すごくしんどかったです。2時間ぐらいの会議を少なくとも20〜30回ほど実施してきましたね」
度重なる議論の結果、探究の目標は「豊かな人生を歩める人」に決まった。「豊かな」という言葉にはさまざまな意味が含まれていると長岡先生は話す。
「金銭的な豊かさをイメージしても良いですし、精神の豊かさをイメージしても良い。生徒が『豊かさ』をどのように捉え、探究を通じて自身の考える豊かな人生に向かって成長していけるのかが重要だという結論に至りました」
なぜEdv Pathを中等部1年生で?
デザイン思考の授業を中等部で実施していくにあたって、学内では「中等部への入学後間もない時期にデザイン思考の授業を設置して良いものだろうか?」という議論も交わされたという。しかし、長岡先生には「『中学受験』という競争社会で生きてきた生徒たちが、まずは探究学習を通じてそれらをリセットし、学校生活を始める方が良いのではないか?」という想いがあったと語る。
自己肯定感が低い子どもが多いという現状も踏まえ、生徒たちが立ち止まって自分の強みを考える時間を作るために、Edv PathのSEL探究カリキュラムを導入した。教材を通じ、生徒の自己理解やクラスメイトに対する理解を深めることで、これからの探究や学習のベース作りに役立てていく試みだったと長岡先生は語った。
探究をやっていく中での課題
実際に探究を進めていくにあたり、答えや指導法が明確でないものを授業として実施することへの不安の声も上がった。その中で長岡先生は、決まった答えのない探究に取り組む意義について、次のような考えを共有したという。
「生徒が自身のテーマについて、1年かけて探究した結果として、何も得られない可能性も大いにあります。しかし、それも生徒にとっては1つのゴールだと思うんです。探究のゴールには人それぞれ多様な形がある。1年間の探究を通して、自分のテーマに真剣に向き合い、活動したというプロセスが重要であり、その中で何に気付き、何を感じ、何を得たのかということに目を向けたいです」
「探究のゴールは多様である」という考え方は、探究学習を全学年で実施してきた約1年間の間で徐々に浸透してきていると語る長岡先生。さらに、この1年を次のように振り返った。
「ゴールの形が多様であるからこそ、結果はなかなか表面化しづらいという側面もあります。しかし、生徒が自ら興味関心のあること、やりたいことを積極的に発信してくれるよ-になりました。そんな生徒の様子の変化は、探究学習をやってきたことの1つの成果ではないかと思います」
また、Edv Pathの教材を用いて自己理解とクラスメイトへの理解を促した中等部1年生の結果について、長岡先生は「学年の宿泊行事において揉め事が減ったという実感がありますね。例年の生徒よりも対人コミュニケーションが良くなっている気がするのは、探究を通じた取り組みの効果の一つではないでしょうか」と話す。
今後に向けて
探究への本格的な取り組みが始まって1年。その運用に尽力してきた長岡先生は現在、より良い授業づくりに向けて指導順序などの変更を考えている。その中で、Edv Pathのアセスメントをもっと活用していきたいと話す。
「システムをさらに活用することで、アセスメントの振り返りをしっかりやっていきたいです。その結果を定期的に見直すことによって、生徒自身が目標を叶えるために何をしていけばいいのか、内省することにも繋がるかと考えています。生徒たちの日常生活をより良い方向に変えていくためにもっとアセスメントを活かしていきたいです」
Edv Pathの機能を全面に活用したリフレクションの仕組みづくりを行うことで生徒のメタ認知を向上させ、一人ひとりがそれぞれにとっての「豊かな人生」を歩めるようにサポートしていきたいと今後に向けた想いを語った。